抱いてはいけない気持ち。
想うのも、今日まで。

何度も何度も、そう思って。
何度も何度も、自分を戒めて。

それでも。
止まらない。






 □■□







「―――蓮兄」

が、修行を終えた兄の部屋へ入ってきた。
心配そうな顔。

「大丈夫? 最近、根詰め過ぎじゃない? もうちょっと気楽にやったら?」

シャワーで濡れた髪をタオルで拭きながら、蓮はフン、と鼻を鳴らした。

「無理はしていない。これくらいは当然だ」

≪兄の顔≫。
いつも通りだ。

「そお?」
「ああ。貴様の方こそ、修行せんでいいのか。修行が必要なのは貴様のほうだろう」

はぎくりと肩を揺らした。

「あ、あたしはいーの。いーの。…ってか修行やりたくない…」
「だから弱いままなのだ」
「………」

うぐ、と唸りながらも、は形勢不利と見なしたか、自分の部屋へと戻ってしまった。
その背を、黙って見送る蓮。

……それで、いいんだ。

蓮はドサリと椅子に座った。
ふーっと息をついて、薄暗い天井を仰ぐ。

一体いつまで、自分は≪兄≫として、振る舞えるのだろうか。
相手は妹だ。そうだ。
こんな感情、異常としか言いようがない。

彼女の、一挙一動に。
ひとつひとつの、表情に。
その、声音に。

欲情して。
今にも手を伸ばして、
抱き締めて、
拘束して。
欲望のままに、動いてしまいそうな気がして。

今だって、ともすればその唇に噛み付いてしまいそうだった。
修行をして、雑念を振り払って、そうしなければやっていられない。

自分が恐ろしい。
そして、醜い。浅ましい。

その瞳も、その表情も、その心も。
すべてを自分に向かせたくなる。
自分以外、向かせたくなくなる。
いっそ何処かに閉じ込めて、自分だけの手で、愛でていきたい。

そう思ってしまう。
そう願ってしまう。

いつの頃からか、≪兄≫と呼ばれる事さえ、疎ましくなってきた。
自分は兄だ。どう足掻いても。彼女にとっては。
だけど女なのだ。自分にとっての彼女は。

いつか彼女にも、慕い、生涯の伴侶として選ぶべき相手が、現れるだろう。
そのとき自分は。
平常心でいられるだろうか。

「殺してしまうかもしれんな…」

彼女の心を奪った相手に。嫉妬して。
いや、それより自分も生きていられるのだろうか。
苦しくて、息が出来なくなってしまうかもしれない。

彼女は自分のもの。
違う。
決して彼女は、兄である自分のものにはならない。
わかっている。
わかっているんだ。

―――理性など、なくなってしまえばいいのに。
そんなものがあるから。
自分は。





…」



蓮は、か細くその名を呼んだ。
同時に溢れてくる激情を抑えながら、頭を抱える。

ああこんなにも。
彼女がいとおしい。
こんなにも。
兄妹として生まれてしまった宿命が、恨めしい。




―――」


いつかは焼き切れてしまうであろう、理性の糸。
それを感じながらも、蓮はそれを拒むように、瞼を降ろした。

―――まだ。
まだ、大丈夫。

だけどその想いは、決して彼女には届かない。












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